1602年にイタリアの聖職者であるカンパネッラが書いた小説です。
長話を延々と聞かされている気分です。面白くありません。
あらすじ
ジェノヴァ人が航海中に訪れた「太陽の都」について騎士に話します。
(おわり)
ユートピア文学
本作はユートピア文学です。架空の社会を題材にした物語です。
トマス・モアの「ユートピア」から始まりました。
内容は「ぼくのかんがえるりそうのこっか」です。
理想国家の描写を通じて、当時の社会問題の批判もしました。
本作は「ユートピア」に触発されて描いた作品です。
参考にしたのは、近藤恒一さんが訳した岩波文庫版です。非常に読みやすいです。
丁寧な訳注がついており、とくに解説のカンパネッラの生涯は読み応えがあります。
しかし、400年も前の作品です。現代から見れば知識や視点が薄弱すぎます。
特に男尊女卑が激しいので、女性の皆さんは精神衛生上、読まない方がよろしいです。
本質を突いているわけでもありませんし。
全体構成
おそらくこういう構成になっていると思います。
かなり強引にまとめましたが、正直なところ構成は良くありません。
性生活の話で仕事(夜の仕事ではありません)の話題をしたり、
食事と健康法で午前中の生活の流れを話したり、
急にキリスト教を褒めたりと、途切れ途切れでまとまっていません。
一応、各章の内容について順に説明していきます。
1.都の建築的構造
都の構造についての説明です。
占星術を元に都市が設計されています。
7つの壁に囲まれており、街の中心には神殿があります。
太陽を中心に置いていることや、ガリレオを擁護していたことから、
地動説が元になっていると思います。
なんだか「鋼の錬金術師」と「進撃の巨人」の設定を足したような都市ですね。
2.統治形態
統治者として、「太陽」がいます。儀式王です。権威の象徴です。
その下には副統治者がいまして、「力」「知恵」「愛」の3人がいます。
「力」が軍部を担当。「知恵」が学問の担当。「愛」が人間の品種改良の担当です。
三位一体を元に組み立てています。
副統治者が権力や三権分立と考えると、そこまでおかしい話でもありません。
国が人間の品種改良をする理由は、悪い子を産まないようにするためです。
要するに国が行う親ガチャです。ただの選民思想です。
3.政体、職務、教育、生活形態
住民は共同生活を送っています。
筆者曰く、あらゆるものを共有すれば、野心がなくなり、隣人愛が強くなるらしいです。
ただの夢物語です。
役人は美徳の象徴です。今でいう「全体の奉仕者」に近いです。
あらゆる学芸や教養にも通じていないといけません。今でいう公務員試験です。
太陽はゼネラリストでして、様々な知識をバランスよく持ちます。
副統治者はスペシャリストでして、専門的な知識を深く持ちます。
途中で貴族や役人批判が入ります。
職人を始めとする労働者を見下す奴は国の害だとか。
権力者は無知な奴がコネでなるとか。聖書ばっか読むな、現実の状況をもっとよく見ろとか。昔も相変わらずだったんですね。
教育は母国語に加えて外国語を学びます。生活形態は寮生活です。
別に今とそこまで変わりません。
みんなピチピチの白ワンピースを着てること以外は。
4.性生活
公序良俗に配慮して詳細な解説はしません。
ブログに載せられる範囲で言うと、
ハイヒールやオシャレをする女は死刑。
本番3日前からムラムラしておくと、健全な子供が産まれる。
同性愛者は見せしめの刑。最悪死刑。
無茶苦茶です。
子作りと教育に力を入れるべきという主張は良いと思いますが、
いかんせん、方法が終わってます。
エロいことを考えすぎて、頭が混乱したのでしょう。
まだ遺伝学はありませんし。
5.軍事
結構まともです。
有事のために軍事力は必須。戦争は外交の最終手段とか、視点は悪くないと思います。
ただ「根性なしは死刑」という極論もあります。軍事心理学の知見が欠けています。
6.仕事
第一次産業の習熟を義務にしてます。国の基本は第一次産業だろうと。
農本主義ですね。
現場を見ない上層部への批判もあると思います。
労働時間は1日4時間です。
仕事の配分が完璧だから、この時間でも大丈夫とのことです。
日本でも早く採用して欲しいです。
後は仕事の適性が誕生の際に分かります。
SEEDシリーズのデスティニープランや
PSYCHO-PASSのシビュラシステムみたいですね。
7.食事と健康法
今でいう、バランスよく食べて免疫力を高める食生活を普段から送っています。
結構まともです。
ただ、病気の治療はズレてます。難病の原因は運動不足・怠惰・食べ過ぎであり、健康食と入浴で治療ができると。
そんなので治ったらみんな苦労しませんよ。
ルドルフの「細胞病理説」が出るのは1858年です。
1602年当時は、まだヒポクラテスの「体液病理説」が主流です。
当時の見識ではこのぐらいが限界だったのでしょう。
8.学問と役人
タイトルが学問と役人ですが、内容は司法についてです。
正直、馬鹿馬鹿しすぎます。裁判は即決すべきと主張しています。
「水曜日のダウンタウン」の小峠死刑じゃないんだから。
これらは刑罰ではなく温情とのことです。ただのSMです。
多分、異端審問に対する皮肉でしょう。
9.宗教と世界観、10.世界の現在と将来
どっちもキリスト教賛美の内容なので、一緒に説明します。
問題なのは一神教の話題です。
論理的に無茶苦茶です。主張として成り立っていません。
9章では、
存在=神。無=神の欠如。
神は存在そのもの。実効性を持つ。だから罪がないと言っていますが、
10章で原罪は父なる神の罪である。子作りと教育で失敗したからだと言っています。
罪がないって言ってたのに、父なる神に罪あるじゃん。
結局、神にも罪あるじゃん。
神に罪があるのかないのか、結局分からずじまいです。
最後に我々は新たなキリスト教で太陽の都を超える国家を作れると宣言して
物語は終わります。前向きです。
まとめ
要するに「太陽の都」でやっていることは、キリスト教社会の分解と再構築です。
そんなことを直接的に言ったら、異端扱いされて拷問部屋へまっしぐらです。
というか、作者は以前連れて行かれました。壮絶でした。
途中、不自然なほどにキリスト教を賛美する内容が挟まるのも、異端ではないと言い訳をするためです。そのため、構成や内容が一部ぐちゃぐちゃになったと思います。
当時の異端に対する扱いは相当だったのでしょう。
後年の「ファウスト」で分かりにくく書いているのも納得です。
読み解きした結論としては、ただの失敗作です。
この本をきっちり読むなら、読者の皆さんは一般の専門書を読みましょう。
そっちの方が勉強になります。
宮沢賢治とカンパネッラ
普通に読めば、変なおじさんのつまらない妄想長話なのですが、
分析した理由は、宮沢賢治が影響を受けたと聞いたからです。
宗教と自然科学を重ねた点や、
空想世界で社会問題を風刺する所は本作と共通しています。
カンパネッラは「銀河鉄道の夜」のカンパネルラと名前が似ています。
ちなみに、ジョバンニはヨハネのイタリア語読みです。
「太陽の都」に出てくるジェノヴァ人は作者であるカンパネッラの分身です。
ちなみに聞き手の騎士はヨハネ騎士修道会という組織に所属しています。
となると、
「銀河鉄道の夜」は、「太陽の都」と同じく、福音書を書いたヨハネと
キリスト教の改革を望んだカンパネッラの二人がキリスト教を見つめ直す物語と言えるかもしれません。
ダンテ(キリスト教)とウェルギリウス(ギリシャ文化)の二人が
キリスト教世界を見つめ直す物語と言えますし、
「銀河鉄道の夜」が「キリスト教の賢治的解釈物語」であることと整合すると思います。