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「オツベルと象」解説【宮沢賢治】

 

この物語は、悪者であるオツベルを仲間の象たちがやっつける話として知られています。

しかし読み解くと、宗主国と植民地、1920年代のイギリスとインドの関係を描いています。

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本文とあらすじ

本文はこちらからどうぞ。短編なのでさらりと読めます。

宮沢賢治 オツベルと象

全体構成

 

 

 

 

 

 

 

牛飼いの語り部

 

 

ある牛飼いがいう

 

 

 

第1日曜

A

1

オツベルの仕事場

器械6台がとても大きな音

砂漠の煙

仕事場を見張る

2

白象がやってくる

白象がやってくる

オツベルは見ないふりをする

象は笑っている

3

オツベルが象を誘う(やっつける)

もみがパチパチ当たる

白象がオツベルと契約

顔をくしゃくしゃ 真っ赤な顔

第2日曜

4

オツベルが象を拘束する

オツベルを牛飼いが褒める

いらないものをつけさせられる

くさりと分銅(ムチ)(邪魔しか残らない

5

オツベルが像に仕事を課す

水汲み(月の御加護?

赤い帽子(オツベル)

鍛冶場への炭火吹き(半日)

第5日曜

B

1

象が嘆きを月に言う

オツベルを象が睨む

苦しい(仕事なんていらない

さようなら(邪魔者だから消えたい

2

象が月に助けを求める

月が助けてくれる

赤い童 登場

手紙を届ける(半日)

3

象たちの住む場所

象が真っ黒になって吠える

砂漠のようにめちゃくちゃになる

カラスの夢(見張ることの暗示)

4

オツベルたちが象に気づく

五匹の像がやってくる

オツベルは象に対処する

象は怒っている

5

象がオツベルをやっつける

ピストルがパチパチ当たる

五匹の像がいっぺんに落ちる

くしゃくしゃに潰れていた

C

1

白象は救出される

白象は痩せてでる

鎖と銅を外す

解放される

牛飼いの語り部

2

おや、●、川へ入っちゃいけないったら

伝統的価値観、道徳、宗教の領域にズケズケと合理が入っちゃいけない

全体を構成しているのは対句です。

上の章立て表の通り、AとBが対になっており、Cは内部で対になっています。

例をあげると、

A-1 器械6台がとても大きな音を立てる↔︎ B-3 象が真っ黒になって吠える

A-3 もみがパチパチと象に当たる↔︎B-5 ピストルがパチパチと象に当たる

A-5 オツベルは赤い帽子を被る↔︎B-2 赤い着物を着た童子が登場する

という具合です。挙げるとキリがないので割愛しますが、他にも数多くの対句が

存在します。

 

はじめに

この童話は、白象が人間に雇われる・月が喋るといった普通に読むと、常識ではありえないような展開が起こります。

こういった物語は、リアリティのある童話でなく、抽象的な物語、つまり何かを暗に示しています。そう解釈して読み進めていきます。

白象の導入が工場制手工業から工場製機械工業への移行の過程、要するに、みんなで分担して作っていたのが、機械を使って作るようになったということを示しているので、白象は蒸気機関&植民地の象徴であることが分かります。

象はインドでは神聖な動物であること、ガンディーの不服従運動が1922年辺り、この作品が1926年発表である事を考えると、

オツベル=イギリス、象=インドであることが分かります。そして、白象はガンディーであることが分かります。wikipediaの経歴や人物像が驚くほど象と一致しています。

2020年現在、コロナウイルスが話題であるように、当時の日本では、不服従運動が話題になっていたのでしょう。

 

 

疑問点1 不自然に強調された数字

オツベルと象では、数字、特に六が不自然に強調されています。これは、全体構成が6という数字で組み込まれていること、対になっていることを暗示しているからであると思われます。

オツベルと象というタイトルからも分かる通り、この物語が対句で構成されることが読み取れます。

 

疑問点2 牛飼いのオツベルへの称賛

牛飼いはオツベルを過剰なまでに褒めますが、下の表を見ると、

オツベルはろくでもない結末に陥っています。

とてもじゃないですが、オツベルは、褒められるような状況ではありません。

このことから、牛飼いは、悪意を持って褒めている、つまり、オツベルに対して皮肉を言っていることが分かります。

要するに牛飼いサイドからすれば、オツベルに対して、好ましい印象を抱いてません。

インドでは牛は神聖な動物です。つまり、牛飼いというのは、神に仕える者や信奉者の意味だと思います。もしかしたら、作者自身かもしれません。

一方、オツベルは神聖な動物である牛を調理したビフテキ(牛のステーキ)を食べます。

このことから、オツベルが悪者である事を示しています。

また、牛飼いの語りにしたのも、この物語が現実社会の風刺であることを強調するためだと思います。

 

牛飼い評

理由

実際

大したもん

経営してる

めちゃくちゃにされる

儲ける

白象を利用する

くしゃくしゃの顔

大したもん

象を自分のものにする

黒象を自分のものにできず

主人が偉い

象がはたらくから

象が働かなくなる

頭が良くて偉い

象を自分のものにする

象にひどい目に合わせる

大したもん

象を自分のものにする

黒象を自分のものにできず

いなくなった

 

多分、死んだから

偉い

農民に的確な指示

農民は逃げ出す

 

もう一つ、象の仕事内容からも、不可解な点がいくつも見受けられます。

最初、オツベルは象に本来不要であるはずのブリキの時計やくさり、くつ、分銅をつけます。

しかも、ブリキの時計は破け、紙のくつはすぐに役に立たなくなります。訳がわかりません。

真相はこうです。

オツベルは自分より強い象を弱らせ、自分の手下、いや奴隷にしたいと思っています。

そのため、象を弱らせるためにあらゆる理屈をつけて、象を弱らせる道具であるくさりと分銅をつけます。

また、仕事をドンドン重い内容にしてく一方、報酬であるわらの量を減らして段々と弱らせていきます。

何も知らない白象は、始めは呑気な言葉を吐きますが、どんどんと弱っていき、最終的に酷い扱いを受けても、主人であるオツベルに逆らえなくなってしまいます。まるで、現代社会におけるブラック企業の上司と部下みたいに。

当時の植民地支配も形は違えども、似たような状況だったのでしょう。

オツベル自身、白象は本来強い存在であることを知っているので、内心はビクビクしています。実際、白象の発言に何度もギョッとしています。仲間を呼んだり、暴力によって反抗されるのを恐れているため、白象に気づかれないようにしてだんだんと弱らせていくのです。

これらの描写から、自分で何も考えず、言われたことをただこなす植民地の人々、奴隷のように植民地を洗脳する宗主国の両方を批判しているみたいですね。

 

 

オツベル→象

オツベル

象のリアクション

 

 

感情

恐れてること

初日

くさりと分銅

 

なかなかにいいね

 

 

 

 

2日目

水汲み

しかめる

目を細めて喜ぶ

10葉のわら

3日の月

 

 

3日目

たぎぎ運び

赤い帽子

目を細めて喜ぶ

8葉のわら

4日の月

ギョッとする

仲間を呼ぶ

4日目

炭火吹き

 

 

7葉のわら

5日の月

ドキッとする

反抗

 

 

 

 

5葉

 

 

 

 

 

ひどくなる

赤い竜の目をして見る

3葉のわら

10日の月

 

 

 

 

つらくする

ふらふらに倒る

食べない

11日の月

 

 

 

宗教

白象は、仏教・ヒンドゥー教においては神聖な生物であり、その象がキリスト教では母の意味を持つサンタマリアという言葉を、イスラム教のシンボルでもあり、神道の神の題材でもある月に向かって言います。

一見意味不明ですが、白象がガンディーである事を考えると、白象は様々な伝統的宗教の集合体、つまり、キリスト教イスラム教、ヒンドゥー教、仏教、神道を表していることが分かります。

そして、この5つの宗教はB-3での5体の黒像に対応してます。

賢治の恐るべき構成力を感じます。

最初、私はオツベルと象を資本者と労働者だと解釈していましたが、象があまりにも強すぎるという違和感がありました。しかし、象がガンディーであり、宗教(ヒンドゥー教キリスト教+仏教+イスラム教+神道)であり、植民地のパワーであると解釈するとその異常な強さも納得できます。

 

疑問点3 くしゃくしゃ

疑問点の3つ目として、本文中にオツベルに対して、くしゃくしゃという表現が不自然に強調されて出てきます。

結論をいうと、くしゃくしゃとは、紙幣の暗喩です。

この作品は、植民地を軽視し、お金を稼ぐ宗主国を主に批判しています。

そのため、子供がそういう大人にならないように、また、そういった大人への抗議として、

くしゃくしゃという表現を使ったのであると思われます。

だから、作中では、金に目が眩んでくしゃくしゃになったオツベルは、

最終的にくしゃくしゃに潰れる結末を迎えるのです。

 

疑問点4 おや、●、川へ入っちゃいけないったら

場合によっては●の部分が(一字不明)の表記で表される、意味不明な文。

この黒丸の部分は、象が寂しく笑う部分と対応すること、そしてイギリスとインドの事を考えると、イギリスを表す「英」以外当てはまらないことが分かります。

ダイレクトに描写すると色々とまずいので、このような表現をしたのでしょう。

川はガンジス川を表します。つまり、伝統的価値観、道徳、宗教の領域にズケズケと合理が入っちゃいけないという筆者の主張が読み取ることができます。

 

疑問点5 赤

赤が何を表しているかが疑問です。赤い童子、オツベルが赤い帽子をつけていたり、象に赤い靴をはかしたり、赤い龍の目を象がします。

この辺りは、今後考察すべき部分でしょう。

 

 

まとめ

この物語は、宗主国と植民地、1920年代のインドとイギリスの関係を示している。

伝統的価値観、道徳、宗教の領域にズケズケと合理が入っちゃいけないという主張を含む。

赤が何を表しているかが、今後の課題である。

 

以上で解説を終わります。

 

余談

出典元は忘れましたが、とある書籍で、宮沢賢治は、入信していた国柱会のある人に「文章力があるのだから、釈迦などの説法を童話などの物語として広めるのはどうか」と勧められたエピソードがあります。ですから、賢治の作品には様々な教訓が作品の中に込められてるのかもしれません。

代表作の中にも、「銀河鉄道の夜」には友情の尊さが、「注文の料理店」には、自然の軽視に対する批判が込められています。

「友情はかけがえのないものだ」「自然を大事にしなければならない」といったこれらの考えが数百年後の我々にアニメや漫画の形として流れていると考えると、何だか感慨深いものがありますね。

 

関連

こちらの方の解釈は必見です。

後世の漫画、アニメに影響を与えた賢治の凄さを知ることができます。

matome.naver.jp

 

宮沢賢治といえば、この作品を思い浮かべる人も多いはず。

作品に流れる不気味な雰囲気の正体を掴んでいる解説です。こちらも同じく必見です。

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今回の読み解きに協力してくれた焼売さんの解説です。

河童の読み解きを通して、芥川龍之介の死の真相に切り込んでいます。芥川好き必見です。

matome.naver.jp

 

参考文献

https://twitter.com/shao1mai4/status/1231409318060118019?s=21

https://ja.wikipedia.org/wiki/マハトマ・ガンディー

 

出典

https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b241612.html